在宅でミキシングを行うために心がけていること|レコーディング現場で学んだことも紹介
現在、私は自宅を中心に楽曲のミックス・マスタリングを行っています。
「在宅でミックス」と聞くと、
「自宅の環境で本当に大丈夫なの?」
と思う人もいるかもしれません。
私自身、以前はレコーディングスタジオで仕事をしていたこともあり、業務用スタジオと一般的な自宅環境の違いは実際に経験しています。
当然ですが、普通の自宅にスタジオと同じ設備を作るのは無理です。
部屋から作り直すことになります(笑)
だからこそ現在は、自宅環境で何を基準に音を判断して、どうやって最終的なクオリティを担保するのかを大切にしています。
高価なプラグインを大量に使えば良い音になるわけでもありませんし、すべてのトラックにEQとコンプレッサーを挿せばミックスが完成するわけでもありません。
最終的に大切なのは、
「その楽曲が何を伝えたいのか」
だと思っています。
この記事では、以前レコーディングやPAなど音響の現場で仕事をしていた経験も含めて、現在私が在宅でミキシングを行う際に心がけていることを紹介します。
レコーディング現場で学んだ「良い音」の基準
私が音響について大きく学んだ場所の一つが、レコーディングスタジオです。
専門学校を卒業した後、レコーディングスタジオで約3年間仕事をしていました。
当然ながら、そこには自宅ではなかなか用意できない機材があります。
大きなコンソール。
業務用のモニタースピーカー。
アウトボード。
専用に設計されたスタジオ。
最初は、
「これがプロの環境か……」
となります。
機材好きなら、それだけでテンション上がります(笑)
ただ、実際に仕事をしていく中で学んだのは、高価な機材の名前よりももっと根本的な部分でした。
レコーディングスタジオで仕事をして学んだこと
現場では、録音する前の音から実際に収録された音、その後の処理まで様々な状態の音を聴くことになります。
そこで特に感じたのが、
「元の音をきちんと聴くこと」の重要性です。
ミックスをしていると、
「EQを使おう」
「コンプレッサーを使おう」
「リバーブを追加しよう」
と、つい処理する方向へ考えたくなります。
でも、そもそも元の音が良ければ、必要以上に触らない方が自然な場合もあります。
逆に問題がある場合も、
何が問題なのかを理解してから処理する。
当たり前の話に見えるのですが、これが結構大切です。
「なんとなくEQ」
「とりあえずコンプ」
になってしまうと、気付いた頃には最初より音が悪くなっていることもあります。
高価な機材よりも「判断できる耳」が重要だった
もちろん、高価な機材には高価である理由があります。
でも、
高い機材を使えば自動的に良い音になるわけではありません。
スタジオで仕事をしていて強く感じたのは、
- この音の何が問題なのか?
- どこを変える必要があるのか?
- そもそも本当に変える必要があるのか?
を判断することの方が重要だということでした。
現在は自宅で作業していますが、この考え方は変わっていません。
プラグインをたくさん使ったから良いミックス。
処理が複雑だから高度なミックス。
というわけではありません。
必要なところに必要な処理をする。
シンプルですが、今でも大切にしています。
音単体ではなく、楽曲全体を見る
ミックスをしていると、ついつい一つの音に集中してしまいます。
例えばスネアをソロにして、
「よし!!めちゃくちゃ良い音になった!!」
となる。
でも全部の楽器を戻したら、
「めっちゃ邪魔だな、このスネア……」
ということもあります。
ミックスは一つひとつの音を最高にする作業ではなく、楽曲全体として成立させる作業だと思っています。
単体では少し細く感じるギターでも、ベースやドラムと一緒になるとちょうどいいかもしれません。
ボーカルも単体ではリバーブが多く感じても、オケの中では自然に聞こえる場合があります。
そのため、ソロで細かく確認することはあっても、最終的には必ず楽曲全体へ戻って判断します。
レコーディングから「ミックスをする仕事」へ興味が変わった
私はもともとレコーディングスタジオで仕事をしていました。
当然そこでは、レコーディングを中心として様々な音楽制作の現場に関わることになります。
ただ、仕事を続けていく中で少しずつ、
「自分は録ることよりも、その後の音を作っていく作業の方が好きかもしれない」
と思うようになりました。
もちろんレコーディングも面白いです。
マイクの選び方や立てる位置、プリアンプ、演奏する場所などによって、録れる音は大きく変わります。
そして、そもそも録音された素材が良くなければ、後からミックスだけですべてを解決できるわけでもありません。
だからこそ、レコーディング現場で経験したことは現在でもかなり役立っています。
ただ、私自身が特に面白いと感じたのは、
録音された音を組み合わせて、一つの楽曲として完成させていく工程
でした。
ボーカルをどこに置くのか。
ベースとキックをどう共存させるのか。
ギターをどこまで広げるのか。
リバーブでどんな空間を作るのか。
静かな部分からサビへ、どうやって楽曲を大きくしていくのか。
一つひとつ考えながら音楽を組み立てていく。
私はどうやら、こっちの作業の方が好きだったんです。
一人で集中できる環境の方がミックスには合っていた
もう一つ、在宅でミックスをするようになって感じたのが、
私は一人で長時間集中して音と向き合う環境との相性がかなり良い
ということです。
ミックスをしていると、
「もう少しボーカル下げるか……」
「いや、さっきの方が良かったな」
「やっぱり戻そう」
「……いや、0.5dBだけ上げよう」
みたいなことを延々やっています(笑)
端から見たら、
何が変わったんだ??
という世界かもしれません。
でも、こういう細かな判断を何度も繰り返して、一つの楽曲を完成させていく作業が私は好きです。
自宅であれば、必要なところで休憩を入れたり、一度耳を休ませたり、時間を空けて改めて聴いたりもしやすい。
周囲を気にせず、一つの楽曲に集中できることも、現在の自分には合っています。
「一人で作業する」と「一人で仕事を完結させる」は別だと思っている
私は一人で集中して作業することが好きですが、
依頼者とのコミュニケーションまで一人で完結させようとは考えていません。
むしろ在宅で直接顔を合わせないからこそ、依頼内容や参考音源、修正内容などの認識合わせは重要だと思っています。
制作中は一人で音に集中する。
方向性については依頼者と共有する。
分からないことがあれば確認する。
修正があれば、その意図を理解して反映する。
この二つは別の話です。
個人的には、
「作業するときは一人で徹底的に集中する。でも作品を完成させるときは依頼者と一緒に作る」
くらいの距離感が、一番自分に合っていると感じています。
在宅ミキシングだからこそ心がけていること
現在はレコーディングスタジオではなく、自宅でミックスをしています。
だからこそ、
自分自身で判断基準を作ること
がより重要になりました。
隣にエンジニアがいて、
「そこちょっと低音多くない?」
なんて言ってくれるわけではありません。
全部自分で判断します。
だからこそ、自分の感覚だけを信用しすぎない仕組みを作っています。
最初に楽曲の方向性を理解する
データを受け取って、
いきなりEQを挿すことは基本的にしません。
まず楽曲を聴きます。
そのうえで、
- どんなジャンルなのか
- 参考楽曲はあるのか
- 何を一番聴かせたいのか
- ボーカルはどのような位置にしたいのか
- どんな感情を持った楽曲なのか
- 最終的にどこで使用されるのか
といった部分を考えます。
例えば同じボーカルでも、常に前へ出した方が良いとは限りません。
楽曲によっては少しオケへ馴染ませた方が、世界観に合う場合もあります。
リバーブも同じです。
明瞭さを重視するなら短めにする。
逆に切なさや空気感を出したいなら、あえて残響を強く感じさせる。
正解は楽曲によって変わります。
だからこそ、最初にその曲がどこへ向かおうとしているのかを理解することから始めています。
音圧よりも先にバランスを作る
ミックスというと、一般的なユーザーの場合はとにかくEQやコンプを挟み、音を作り込んでいくみたいなイメージがあるかもしれません。
でも個人的には、それ以前の音量バランスがかなり重要だと思っています。
フェーダーを調整する。
パンニングを考える。
似た帯域の楽器同士を整理する。
不要な音を整理する。
まずはこの状態で、
普通に音楽として聴けるところまで持っていく。
その後に必要な処理を追加していきます。
最初からプラグインを大量に挿してしまうと、
「そもそも何を直そうとしてたんだっけ?」
となることがあります。
まず楽曲そのものを整えることを優先しています。
ボーカルだけではなく楽曲全体のダイナミクスを見る
特に大切にしているのが楽曲全体の抑揚です。
Aメロ。
Bメロ。
サビ。
全部が同じテンション、同じ密度、同じ音圧で鳴っていたら、サビへ来てもあまり大きく感じません。
静かな場所があるから、大きな場所が大きく聞こえます。
そのため、
「ボーカルをもっと大きくすればサビっぽくなる」
というような単純な考え方ではなく、
楽曲全体としてどのようにサビへ向かっているのか
を見るようにしています。
場合によってはAメロを少し抑えることで、サビを相対的に大きく感じさせることもあります。
音量を上げるだけが迫力ではありません。
エフェクトは「かけたことが分かる」ことを目的にしない
これは昔からかなり意識しています。
コンプレッサーを挿したからには、コンプレッサー感を出さなければいけない。
リバーブを挿したからには、リバーブが聞こえなければいけない。
そんなことはありません。
必要なら使う。
必要なければ使わない。
場合によっては、
「これ本当に処理必要?」
と一度外して確認することもあります。
外して良くなったなら、それでいいんです。
プラグインを外すのも立派なミックスだと思っています。
在宅環境でどうやって品質を担保しているのか
在宅でミックスを依頼する場合、
「その人のモニター環境で大丈夫なの?」
というのは気になるところだと思います。
これは当然の疑問です。
私自身、在宅だからこそ一つの環境だけで最終判断しないことを大切にしています。
一つのモニター環境だけで判断しない
ミックス中は基準となるモニター環境を使いますが、完成へ近づいてきたら複数の環境で確認します。
例えば、
- メインで使用するモニターヘッドホン
- 一般的なワイヤレスイヤホン
- 低音が強めのイヤホン
- 比較的解像度の高いイヤホン
- スマートフォンなどの一般的な再生環境
といった形です。
ここで目指しているのは、
すべての機器でまったく同じ音にすることではありません。
そんなことはできません。
機器ごとに特性が違うので、同じ音になるわけがありません。
確認したいのは、
再生環境が変わっても楽曲として大きく破綻していないか
です。
一般的なリスニング環境でも確認する
最終的に楽曲を聴く人が、全員スタジオモニターを持っているわけではありません。
むしろ多くの場合、
ワイヤレスイヤホン。
スマートフォン。
一般的なヘッドホン。
そういった環境で聴かれることになります。
だから、
スタジオ用ヘッドホンでは良い感じなのに、
イヤホンにした瞬間、
「ベース、どこ行った?」
となるのは避けたいところです。
ボーカルはきちんと聞こえるか。
低音の存在感は残っているか。
高域だけ痛くなっていないか。
楽曲の空気感が極端に変わっていないか。
こうした部分を確認しています。
リファレンス音源と比較して客観性を取り戻す
長時間同じ曲を聴いていると、
普通に耳が慣れます。
最初は、
「低音ちょっと多いかな?」
と思っていたのに、30分後には、
「こんなもんか」
となる。
人間の耳って便利なのか不便なのか分かりません(笑)
そのため、必要に応じて参考となる商業音源などと比較します。
低域。
ボーカルの位置。
高域。
音量感。
空間。
ダイナミクス。
もちろんリファレンスとまったく同じ音を作るわけではありません。
あくまで、
自分の判断が極端な方向へ行っていないか確認するための基準
として使います。
時間を空けて改めて確認する
可能な場合は、一度完成したと思った状態から時間を空けて、もう一度確認します。
これが結構重要です。
何時間もミックスしていると、
「完璧!!」
と思う瞬間があります。
そして翌日聴くと、
「なんで昨日これで完璧だと思ったんだ?」
となることがあります(笑)
耳を休ませるだけで、驚くほど印象が変わります。
そのため納期との兼ね合いはありますが、できる限り一度耳をリセットした状態でも確認するようにしています。
在宅だからこそコミュニケーションを大切にする
外部からミックスを任せてもらう場合、技術だけで仕事が完結するわけではありません。
むしろ在宅だからこそ、
コミュニケーションもミックス作業の一部
だと考えています。
依頼内容と参考音源を最初に確認する
ミックスには好みがあります。
そのため、
「良い感じにしてください!」
だけでは、依頼者と自分の「良い感じ」が一致するとは限りません。
できるだけ、
- 参考楽曲
- 楽曲の方向性
- ボーカルのイメージ
- 特に聴かせたい楽器
- 使用用途
- 納品形式
などを確認してから作業します。
最初に方向性を共有しておけば、完成後に、
「思ってたのと全然違う!!」
となる可能性も減らせます。
修正依頼を「否定」として受け取らない
これは外部案件ではかなり大切だと思っています。
例えば、
「もう少しボーカルを前にしてください」
という修正は依頼者が求めている完成形へ近づけるための情報です。
ミックスにはエンジニアの考えもありますが、最終的には依頼者の作品です。
そのため修正内容を確認し、必要に応じてこちらから提案もしながら、求めている方向へ近づけていくことを大切にしています。
分からないことを勝手に判断しない
素材を受け取ると、
「これは意図的なのかな?」
と判断に迷うことがあります。
ノイズ。
特殊な定位。
音量差。
エフェクト。
ファイルの不足。
そういった部分を、
「たぶんこういうことだろう」
だけで進めてしまうのは危険です。
意図が分からなければ確認する。
必要なデータがなければ相談する。
地味ですが、外部の人間として制作へ参加するなら非常に重要なことだと思っています。
納品後のことまで考えてミックスする
ミックスが完成してWAVを書き出したら、
はい終わり!!
ではありません。
案件によっては修正がありますし、セッションデータそのものを扱う場合もあります。
そのため、後から自分自身が見ても分かる状態を維持するようにしています。
修正を想定してセッションを整理する
トラック数が多い案件では特に、
- トラック名
- カラー
- グループ
- AUX
- VCA
- ルーティング
などを整理します。
100トラック近いセッションであっても、一つずつの音源の役割を確認してグルーピング化していきます。
必要以上に特殊な環境へ依存しない
セッションデータそのものを共有する可能性がある案件では、使用するプラグインにも注意が必要です。
自分しか持っていない特殊なプラグインを大量に使用すると、相手側でセッションを開けなくなる場合があります。
そのため案件によっては、標準プラグインを中心に構成したり、必要な処理をオーディオとして書き出したりと、
納品後にどう扱われるのか
まで考えます。
「自分の環境では動きます!」
だけでは困りますからね。
現場を離れたからこそ持てる客観性もある
私は現在、レコーディングスタジオへ勤務しているわけではありません。
以前は現場で仕事をしていましたが、現在はWeb制作など別の仕事もしながら、在宅で音楽制作をしています。
一見するとこれは弱みに見えるかもしれません。
ただ、個人的には現在の立場だからこそ持てる視点もあると思っています。
ルーティンではなく一曲ずつ考える
現在は毎日大量の楽曲を処理するような働き方ではありません。
だからこそ、一曲ごとに、
「この曲は何を一番聴かせたいんだろう?」
と考える時間を大切にしています。
壮大にしたい曲。
近い距離で歌っているように感じさせたい曲。
楽器全体を一つの塊として聞かせたい曲。
一つひとつの音を明瞭に聞かせたい曲。
当然、同じ処理にはなりません。
自分の中の「いつものミックス」に当てはめるのではなく、その楽曲に合った方法を考える。
これは現在かなり大切にしている部分です。
エンジニアではなくリスナーとしても聴く
ミックスをしていると、
「200Hzが……」
「コンプのアタックが……」
「リバーブのプリディレイが……」
と、どんどん技術的な方向へ頭が行きます。
もちろん必要です。
でも最終的に一般の人が曲を聴くとき、
「このボーカル、3kHzがいい感じだな」
とは普通考えません。笑
「この曲かっこいい」
「この歌声好き」
「このサビ気持ちいい」
という感覚で聴きます。
だから最後は、エンジニアとしてではなく、
普通に音楽として聴いて気持ちいいか
という視点に戻るようにしています。
技術的に正しいことと、音楽として気持ちいいことが必ずしも同じとは限りません。
その両方のバランスを取ることがミックスの面白さだと思っています。
私が在宅ミキシングで最終的に目指していること
ここまで色々書きましたが、私が在宅でミックスを行ううえで最終的に目指しているのは、
単純に「良い音を作ること」だけではありません。
もちろん音のクオリティは大切です。
でも仕事として誰かの楽曲を預かるのであれば、
音を判断する。
楽曲の意図を理解する。
適切に処理する。
複数環境で確認する。
必要な修正へ対応する。
分からないことは確認する。
データを適切に管理する。
そして納期までに完成させる。
ここまで含めて仕事だと思っています。
以前レコーディングやPAなど音響の現場で仕事をしていた経験は、現在でも自分の中にある一つの判断基準です。
ただ、
「昔スタジオで働いていたから大丈夫です!」
だけでは、当然仕事としての信用にはなりません。
そこで学んだことを、現在の環境でどう活かすのか。
在宅だからこそ足りない部分をどう補うのか。
そして一曲ごとに、
「なぜこの処理をするのか?」
を考える。
これを大切にしています。
高価な機材を持っていることよりも、
大量のプラグインを使うことよりも、
最終的に、
「この人なら最後まで安心して楽曲を預けられる」
と思ってもらえる仕事をすること。
それが現在、私が在宅でミキシングを行ううえで一番大切にしていることです。